Essay · No. 03
must_notを書く勇気
2026年4月22日 Meandle
「やること」を書くのは難しくない。「やらないこと」を書くのは、なぜかとても難しい。must_not を書く作業に着手すると、組織は途端に手が止まる。これは怠慢ではない。やらないことを書くという行為そのものに、特有の心理的負荷がかかるからだ。
なぜ must_not は書きにくいのか
機会損失への恐れ
「やらない」と書いた瞬間、その仕事は二度と来なくなる、という錯覚。実際には逆で、引き受けるべきでない仕事を断れる組織のほうが、本来引き受けるべき仕事を厚く積み上げられる。
過去の自分との不整合
これまで請けてきた仕事の一部を「もう請けない」と宣言することは、過去の判断を否定するように感じられる。だが意味は、時間とともに更新される。過去を否定するのではなく、現在の輪郭を強くする作業として書く。
組織内の合意の難しさ
「我々はこれをやらない」は、強い宣言だ。must は人を集めるが、must_not は時に人を選び直す。must_not の議論は、戦略議論であると同時に、組織の輪郭の議論でもある。
書き方の作法
- 主語は事業(または部門)。個人の好き嫌いではない。
- 「やらない」だけでなく、「なぜやらないか」を一行添える。
- must_not は 1 〜 3 個でよい。多すぎると守れなくなる。
must_not が機能している組織の見分け方
- 営業が、提案の段階で要件を断ることがある
- マーケが、当てに行かない言葉を持っている
- 採用面接で、自社が「向いていない」候補に率直に伝えている
must_not は、最も外向きにも、最も内向きにも機能する。書く勇気を持つ組織は、書いた直後から、輪郭が立ち上がる。